紙の月ホテル1209号室

<ようこの夢>

その部屋の居心地は悪くなかった。が、空気は立ち止まったまま、流れる先はなかった。空気は気持ちだった。気持ちがその部屋で、ぼんやりと立ち止まっていた。

わたしがその部屋でカゴに入った鳥を眺めていると、ドアから息子が入ってきた。ドアを開け放ったまま、スタスタとドアの反対側にある窓に近づき、ガチャっと開けた。
風が事件のように部屋を通り抜ける。
カゴの鳥は風に驚き、バタバタと羽を広げた。飛ぼうとしてはカゴにあたっている。それはまるでカゴに入っていることを知らないかのように。

わたしはカゴから鳥を出してあげたかった。自由に空を飛んで、そして時折この部屋に戻ってきたらいい、と。

違うよ、かーさん。こうするんだ。

息子は鳥カゴごと鳥を窓の外に置き、そして鳥カゴの扉を開けた。
鳥はカゴの中で首をかしげ、足で頭を掻き、餌を突いた。

部屋にある時はカゴだったが、その時からカゴは空の下で「鳥の家」になった。

鳥は止まり木で目を閉じている。風が鳥のあたまの羽根をふわふわと立ち上げた。
その様が面白くて笑うわたしの声に一度薄目を開けたが、小さく呼吸をして、また目を閉じた。

※この物語はフィクションです
モーリス・ドニ
「アムール」表紙
1898年