そして僕は途方に暮れる④
(ネタバレあり)
彼女の部屋。アパートのドアの内側。シングルベッド。キッチン。小さなテーブル。テレビ。2人掛けのソファ。舞台上部のランダムな大きなモニターには、主人公の見るライン他SNSが次々に映し出される。浮気を問い詰められ部屋から逃げる主人公。
東京の街(渋谷?)。自動販売機。モニターには街のネオンや看板。そして電話する相手のラインが出る。故郷(北海道)の友人に電話し、転がりこむ。
友人の部屋。きちんと整理整頓された部屋。柔軟剤まで使い洗濯してくれた衣服を(しかもきれいにたたんで渡される)ポイと投げる・ファミマしかない弁当はセブンじゃないと云々。感謝もない。そんな態度を友人にたしなめられたとたん逃げるように部屋を出る。
再び街。バイトの先輩に電話。
散らかった先輩の部屋。敷きっぱなしの布団。洗濯から掃除まで何から何までやる主人公。ヘリくだる自分に愛想が尽きたのか、遊びに来た後輩に見栄を張りつつそこを出る。
お姉さんの部屋、北海道の実家、別れた父親の部屋。物語はそんな風に、部屋がどんどん出てくる。部屋とその住人は、逃げ続けるだめな主人公を受け入れて行く。
いくつもの部屋の美術は全てが具象でそれぞれ小物が多く、生活感が重視されている(演劇じゃなくてテレビドラマの方がいいのかなとも思った)。多くの物や人や出来事が混沌とした日々の中で、大事なものを見つけるのは大変だ、というテーマもあるのかもしれない。
今いる部屋(場所)から逃げて次の部屋に行っても何にもならない。次の部屋に行く時は、逃げるのでなく、出て行くのでなければ。
主人公は最後、一番最初の彼女の部屋に戻る。そして出て行く。
*
カーテンコール。
聞き覚えのあるイントロが流れる。
大沢誉志幸
「そして僕は途方に暮れる」
留まりたいのに許されなかった部屋を、私は泣きながら背にした。自分の意思で出たのではないその部屋は、いまも心から消える事なく、時折私は想い出が彷徨うその部屋を見つめる。扉は開けない。冷たい窓ガラスに鼻をつけ、涙でぐしゃぐしゃになりながらも笑顔で。
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