モンブラン男爵(童話)
「よせよせよせー!そんな事をしても誤解は解けぬ!」
モンブラン男爵は詫び状をしたためる執事の背中側からペンを取りあげました。
「しかし、旦那さま、このままでは詐欺師だと思われてしまいます」
「うーーーむ!もう仕方あるまい!預かった指輪がないのだから」
「ないだけならまだしも、3番街の質屋で見たと言いふらされては…」
さてこれはなんのことかと申しますと、3カ月ほど前の事です。モンブラン男爵と仲の良い、マカロン男爵が、近所に来たから、と女性を伴い顔を出し
「実はこちら…、コホン!いまお付き合いさせていただいている、テリーヌ夫人でね」
マカロン男爵は10年前に奥さんを亡くしご子息2人は成人して、長男は銀行家、次男は外交官となって、文字通りの独身貴族でしたから、モンブラン男爵も「それは良かった!」と2人と微笑ましくお茶の時間を過ごしました。
それから一週間も経たないうちに、今度はテリーヌ夫人が突然1人でモンブラン家を訪れました。
「おやこれは、確かテリーヌ夫人?でしたな?今日はマカロン君はご一緒ではないのですか?」
「はい」
「そうですか」
(一体1人で何しに来たのだろう?)モンブラン男爵は訝しむ気持ちを隠し、(まぁおそらく遠慮をするだろう)と思いつつ一応お茶はいかがと言ってみましたら、なんと
「ありがとうございます」
と遠慮もなしに二つ返事。
執事の案内より先に、スタスタと居間へと向かって行きました。
(続く)
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