バリー・マクガイアの「明日なき世界」で始まり、ジョン・レノンの「イマジン」で終わる洋楽のカバー・アルバム『COVERS』は、RCサクセションと契約していたレコード会社の東芝EMIから1988年8月6日、世界で最初の原子爆弾によって多くの人の生命が奪われた広島平和記念日に発売される予定だった。 しかし「ラヴ・ミー・テンダー」と「サマータイム・ブルース」が原子力発電への不安や危険性を訴える内容だっために、原子炉を作る親会社の東芝から圧力がかけられると、子会社の東芝EMIはそれに抵抗できなかった。 6月25日に発売予定だった先行シングルとアルバム『COVERS』に関して、「素晴らしすぎて発売できません」という意味不明の新聞広告を、音楽とは場違いな経済面の片隅に出しただけで発売を中止したのである。 パリの通信社はそのニュースをこのように報じていた。 日本の大手レコードメーカー東芝EMIは22日、リベラシオン紙等で健筆を振るうフランス人ジャーナリスト、コリーヌ・ブレがコーラス等で参加していた日本のロックグループのLPレコードを発売3日前に突如発売中止とした。 中止は「イッツ・ア・ビティ、イッツ・ソー・グレイト、バット・ウィー・キャント・リリース!」という意味不明のコピーとともに広告の形をとって日本の有力紙、朝日新聞の商況欄に掲載されただけで理由に関しての説明は一切ない、といういつもながらの日本式が採用されている。 これをうけて日本のマスコミ各社はグループが発表しようとしていた反核のメッセージに問題があったのではという憶測記事をさまざまに紹介している。 この事件は決定だけを重んじ、プロセスを相手に理解してもらおうという努力を怠る日本人のやり方が、国際的な場面だけでなく国内でもまかり通っていたことを広く各国に調べ占めることとなった。 そこから起こった様々な騒ぎのなかで、当時のマスコミがどう反応したのかをあらためて検証してみた。 報知新聞の芸能記者を経て音楽評論家になった伊藤強は、権力による世論管理の危険性について指摘していた。これは21世紀の今でも、そのまま通じる問題だ。 RCサクセションのLP 『COVERS』とシングルの「ラヴ・ミー・テンダー」の発売中止事件は、今更のように世論管理が行き届いている日本の現状を教えられたような気がする。「ラヴ・ミー・テンダー」なんて、聞きよう
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